2008年12月18日
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オルランドとオート・ガーディアン (前編)

Written By: 遠野秋彦連絡先

 初の恒星間戦争に勝利して帰還した連合防衛軍艦隊を待ち受けていたのは、栄光ではなかった。それは、過剰な惨殺を行ったという糾弾であった。

 この状況には明らかに情報操作や扇動と言った工作の痕跡が認められた。

 常識的に考えれば、命を張って戦った上で帰還した連合防衛軍は、そのような痕跡を追及した上で、自らの身の潔白を晴らすべきだったといえる。

 だが、実際にはそのような流れにはならなかった。

 それはなぜか。

 実は、連合防衛軍の主力となったのはオルランド宇宙軍であることから、オルランドに対する根深い不信感が噴出していたのである。これは、ベーダーによる情報操作とは別次元の問題と言えた。歴史的に長い間「存在しないこと」にされ続けたオルランドは、たいていの国の一般人から見れば、あり得ない奇矯な国家であると見えたのだ。

 更に状況に影響を与えたのは、実質的に地球からの補給がほとんど不可能であるほど遠くで活動するための装備が整備されていたことだった。つまり、それがオルランドの人工惑星である。人工惑星は、それ自体が1つの都市であり国家であり自立した生産、経済システムですらあったのだ。だから、人工惑星さえあれば、地球に帰還せずに暮らし続けるという選択すらあったのだ。

 そして、とどめの一撃は「疑心暗鬼」であった。ベーダーによる情報操作により、これだけの世論の盛り上がりが出現している以上、ひょっとしたらどこかで地球攻撃を狙って隠れているベーダーの大部隊が残っているのではないか、と考えられたのである。

 その結果、連合防衛軍は……というよりも、オルランド宇宙軍は存在しない敵に備えるための誤った選択を下すことになった。

 つまり、女子供を地球に強制的に送りつけた上で、人工惑星を木星のメタンの海に沈めるという選択である。木星の海に耐えられるのは、この当時まさに人工惑星だけであったから、誰にも手出しできない場所で眠りにつくことになった。全軍が眠りにつくのは、もちろん敵から地球を護るためであった。

 そして、彼らがもう1つ行ったことは、人工惑星の工場をフル稼働させて、これまでにない宇宙艦を建造することであった。それは、完全に無人で稼働し、地球を防衛する任務に特化された超大型艦オート・ガーディアン級であった。

 オート・ガーディアン級の任務は太陽系周辺の警戒を行い、外敵の侵入をけして許さないことであった。そして、オルランド人工惑星が目覚め、艦隊主力が駆けつけるまではけして負けてはならなかった。

 しかし、無人艦の知性は限られており、有人艦と同等の性能では確実な勝利は期待できなかった。そこで、当時最大の有人艦であった2Kクラスの戦艦の2倍の全長を持つ全長4kmクラスの巨大な船体を与えられることになった。これは、本来は2Kクラスの後継艦候補の1つであった計画案の図面を転用したものであった。

 そして、もう1つ忘れてはならないことがある。オート・ガーディアン級は人間の指示が与えられない状況で外敵を確実に阻止しなければならない。そのため、オート・ガーディアン級の艦載AIは、愚直なまでに原則を遵守するように設計された。つまり、たとえ連合防衛軍最高司令官つまりオルランド皇帝の命令であろうと、外敵の阻止行動を止めることは無いように作られた。これは巧妙な「なりすまし」に備えた配慮であった。

 もちろん、このような命令無視はあくまで外敵の阻止行動中に限って発動するものであった。それ以外のケースでは、全艦オルランド皇帝の命令に忠実に従うよう、プログラムされたのである。

 多数のオート・ガーディアン級宇宙艦が宇宙に放たれたとき、地球はそれを黙認した。というよりも、連合防衛軍を悪として糾弾した彼らに、それを阻止する宇宙戦力は無かったのだ。しかも、地球近傍に来ることはないとあっては、無かったことにして忘れる方が精神衛生上良かったのかもしれない。

 やがて、地球の人類は木星の海に沈んだ人工惑星のことも、太陽系外延部で警戒し続けるオート・ガーディアン級宇宙艦のことも忘れ去っていった。

 眠り続ける人工惑星内の軍人達も夢の中で全てを忘れていたかもしれない。

 しかし、オート・ガーディアン級宇宙艦は外敵の侵入アラートを発した。もはや存在しないはずのベーダー式宇宙艦隊が出現したのである。しかも、ベーダーのやり方を踏襲し、冥王星に基地の設営まで開始した。

 オート・ガーディアン級は集結し、人工惑星のアラート受信を確認すると、艦隊を組んで設営中の基地と敵艦隊に向けて攻撃を開始した。

(中編に続く)

(遠野秋彦・作 ©2008 TOHNO, Akihiko)

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